公益重視の「新しい資本主義」に向けて:政策的な議論がスタート
2022年5月16日の日経新聞(電子版)に、
「企業、ESG時代「第3の道」 公益重視の新しい会社形態」という記事がでました。
岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けた計画の柱の一つとして、短期の利益追求への偏りを修正し、ステークホルダー資本主義を取り入れた公益性の高い事業を行う会社形態について、法整備を含めた対応を視野に検討に入ったという内容です。
ESGにつながる事業を展開したいとの思い入れが強い若い起業家の増加を、株式会社と非営利組織の間の「第3の法人形態」の導入で後押ししたい思惑があるようです。
こうした法人形態の増加が、行政や非営利組織だけでは限界のあった社会課題解決につながると同時に、投資を集めてマーケットも拡大していくことが期待されるところです。
日本の認証B Corp
政策的にはようやく議論が始まったステークホルダー資本主義ですが、先進的に認証B Corpとなった日本の企業はどのような取り組みをしているのでしょうか?
大企業と中堅企業、スタートアップ企業の3つの事例を紹介します。
① ダノンジャパン(B Corp認証取得:2020年5月)
フランスに本部がある食品大手のダノンは2020年、フランスが前年に法改正で設けた新たな会社形態「使命を果たす会社」になる決議をし、社会的企業であるという理念と環境・社会分野の目標を定款に定めました。エマニュエル・ファベール会長兼最高経営責任者(CEO)は、「事業がすべての利害関係者のために行われていると示すほど、価値が生み出されて、評価されていくと確信している」と述べています。そして、全世界で2025年までにB Corpを取得することを目標に掲げ、日本法人は2020年5月に取得しました。
ダノンジャパンのホームページでは、B インパクトアセスメントの5つのカテゴリーに沿って、同社の取り組みが非常にわかりやすく説明されています。
★ガバナンス
・従業員に研修を行い、自社のビジョンを浸透させ、アクションに繋げるサポートを実施
・従業員に株を付与し、経営陣にフィードバックをする機会を付与
・人事評価制度においてビジョンとミッションを連動
・素材にこだわり、原材料についての情報発信を強化
★従業員
・従業員のライフスタイルに合わせた働き方を提供
・健康増進を⽬的に、 従業員向けダノンワールドカップを隔年で開催
・ダノン製品をいつでも無料で食べられるように職場に用意
・社員の健康を促進し、ジムメンバーシップやレジャー活動等の助成金を提供
・オンライン・オフライン研修をを通じて、必要なスキル・知識の習得が可能
・リーダーシップスキルの向上のため、特定の人材向けに認定マネジメント研修を提供
★コミュニティ
・ダノンジャパンの経営メンバーの女性比率は50%
・ダノンジャパンのマネジャーのおよそ3分の1が女性で、管理職内の男女間の賃金格差2%
・ダノンジャパンで働く従業員の国籍は19か国
・食育活動など健康と栄養に関する情報を社会に提供し、人々の健康増進への活動を展開
・小学生の国際サッカー大会「ダノンネーションズカップ」日本大会を開催。
★環境
・廃棄物のリサイクル買取による経費削減と廃棄物の大幅な削減による環境への負荷軽減
・廃棄物分別作業での障がい者支援団体との連携による地域社会への貢献
・グローバルのダノンは、2025年までに製品パッケージの100%を再利用可能、リサイクル可能、または堆肥化可能にすると約束
★顧客
・ダノンジャパンは2011年に日本の乳業界で初めて食品安全マネジメントシステムの国際規格FSSC22000を取得
・製品における保存試験を行い、食品安全と品質の安定性を評価することにより、発酵乳製品(ヨーグルト)の賞味期限を製造後33日または39日に設定
・全てのダノン従業員がお客様の声を真摯に受け止め、常に改善に取り組むプログラム実施
言わずと知れたグローバル企業ですが、世界規模でのB Corp認証を目指しているだけに、その取り組みも徹底されています。
こうした大企業と手を組んで、ビジネスを通してより良い社会を構築する世界的な動きの一員になれるのが、B Corpの醍醐味といえます。
② クラダシ(B Corp認証取得:2022年6月)
株式会社クラダシ(東京都品川区、2014年~)は、社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI(クラダシ)」を運営し、「日本で最も食品ロスを削減する会社」をビジョンに活動の幅を広げている企業です。
「もったいないを価値へ」をモットーに、賞味期限が近づいたり規格外になったりした食品など、これまで様々な理由で廃棄されてきた商品を企業から仕入れ、「Kuradashi」で最大97%オフで販売しています。そして、売上の一部を環境保護、海外支援、動物保護、災害支援活動などに寄付しています。(購入者自身で寄付先を選定できます。)
また、2019年10月に施行された「食品ロス削減推進法」を受けて、2020年からは20以上の自治体と食品ロス削減に向けた連携協定を締結し、全国に約140あるフードバンクの支援も行い、2022年2月には、複数の企業や大学と連携して、こども食堂に食品を提供する実証実験も実施しました。
2022年6月末には「KURADASHI」の会員数が累計35万人、仕入先の協賛企業は累計990社を突破。22年6月期の売上高成長率は前年同期比230%を記録。2022年7月6日には、新生企業投資など5社から第三者割当投資による総額6.5億円の資金調達を発表しました。
そして、2022年9月時点の支援総額は約8500万円を超えています。
SDGsの目標12で明記されているフードロスの削減に正面から取り組みながら、本来なら廃棄されるはずの商品のブランド価値を守りつつ、生活者も気軽にオトクにフードロス削減・社会貢献ができる場(「ソーシャルグッドマーケット」)を提供している点が、顧客の増加と資金調達、寄付の拡大にもつながっている好例です。
(従業員の約7割が女性だという点も特筆に値します。)
社会・経済・政治の動向に敏感に反応し、適宜チームを組んで、大きな社会課題解決に挑む事業を展開し、その収益の一部を社会に還元させている、サスティナブルな循環型経済の嚆矢といえるでしょう。
次回は、3つ目の事例を紹介し、B Corpについてのシリーズ記事を締めくくります。
【B Corp④】日本のB Corpの事例と今後の展望(前編) ←今ここ
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