「移住・定住」でも「交流人口」でもない「関係人口」の登場
先月のコラムで、人口が増加している自治体について紹介し、地方の小規模自治体が消滅を回避するために何が必要かを考察した。
しかしながら、日本の人口が減少し続けるなかで、各自治体が人口増加(≒移住・定住)を目指すことは単なるパイの奪い合いとなり、疲弊するだけである。
どうしたら人口規模を維持できるか、もしくは人口が減少しながらもコミュニティの質を保てるのかを考えることは重要であるが、自治体の持続可能性を考えていくうえで、いま「関係人口」という概念が注目されている。
人口減少の問題点が、消費の減少→生産の減少→人口の減少の負のスパイラルであるならば、地方のモノやコトの消費に外から貢献したり、一定期間滞在・居住することで地方経済の循環を促進して、地方の活性化の一翼を担うことができるはずだ。
観光などは「交流人口」とよばれるが、受け入れ側である地方(の労働)が消費されるだけの短期的関わりで終わることがほとんどである。
「関係人口」には、シェアリングエコノミーで人口減少の問題を解消して、地域社会を元気にしていくという考え方が根底にある。
関係人口は、人によって関わり方に濃淡があり、複数の地域と関係することも可能だ。
政府による定義
2019年に政府が定めた第二期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(第一期は2014年に制定されたが、東京から地方への人口移動を目標としたものであり、東京一極集中の加速化の下で見直された)では、地方との多様な関わりに焦点をあて、「関係人口」に着目した。
たとえば、地域外から地域の祭りに毎年参加し運営にも携わる、副業・兼業で週末に地域の企業・NPOで働くなど、その地域に多様な形で継続的に関わる人々のことを指し、「観光以上、移住未満」という位置づけである。
また、総務省が開設している「関係人口ポータルサイト」では、交流人口と定住人口の間にある関係人口の多様性を下図のように説明している。
「関わりしろ」の重要性
政府の第二期総合戦略から間もなく始まったコロナ禍では、都市の過密性が問題視される一方でオンライン技術などが進歩し、自然豊かな地方で生活・仕事をすることへの関心が高まった。
以前よりも「関係人口」的な関わりが現実味をもって捉えられることになったのは、タイミングが良かったといえるかもしれない。
個人の幸福度をあげながら地方の活力にもつながるならまさにwin-winな「関係」となる。
しかし、都会から離れた地方に関係人口を増やすためには、
・地域とつながれる場所や仲間がいる
・自分の能力や経験を活かせる機会がある
・時間的・金銭的負担が軽減される
・「お金と時間をかけてわざわざ行く」モチベーションetc.
が必要であり、「関わり」における自分の役割を見出すことが重要となるだろう。
私はそれを「かかわりしろ」とよんでいる。
私は10年以上、能登半島の七尾市と大阪の二拠点居住を続けており、七尾市でも既にたくさんの顔見知りがいて、微力ながら七尾の地域経済に貢献していると自負している。
私の場合、七尾市で大きな仕事をいただけたことがきっかけであったが、定期的に七尾に居住し、時には家族も一緒に滞在している。
特に、能登で盛んなお祭りには家族で参加して、コミュニティ維持の一端も担っていると感じている。お祭りというのは、コミュニティ活動の維持と切っても切り離せないものだ。
七尾市で拠点としているのは、「佐野邸」という古民家であるが、使用していない時は民泊として一般客に利用していただいている。
維持管理する人手不足に陥っていた古民家という地域資源について、七尾市でできた人脈と信頼を活用して、私が買い取ったのだ。
地域外の人間が担い手不足を補い、資金と知恵と労力を提供して、地域内経済の活性化の糸口になればという思いで管理人を続けている。
「関係人口」の実体験から、将来世代への希望
私は、地元の大阪府柏原市から片道5時間離れた石川県七尾市の「関係人口」であるが、それだけの距離を移動するだけで、まったく別のコミュニティ・価値観をもつ人々と対峙することになる。
生活様式や人間関係などからコミュニケーションの難しさを感じることもあったが、そこから得た学びや気づきも多く、自分のキャリアの中で核となる仕事をさせてもらうことにもなった。
また、都会にはない穏やかな時間の流れや濃密な人間関係、美味しい食材に触れ、文化の奥深さに敬服することもある。それは、家族にもできるだけ共有してもらえるように心がけている。
特に子どもたちは、生まれ育った大阪だけではなく、離れた場所・社会と関わりをもつ楽しさ・意味を感じてくれていると思う。
彼らが、これからの人口減少時代において、人財として地方の活性化に寄与する関わり方を見つけてくれたら、本望であるのだが。
「関係人口」を増やすにも戦略が必要
実際、私が子どもたちに期待するように「関係人口」には多くの可能性があると思うのだが、たくさんの人が「かかわりしろ」を見つけて、実際に行動に移してもらうためには、受け入れ側の体系的な段階設定の戦略が必要であるのは言うまでもない。
私は「関係人口」ということばはわかりづらいので、「常連人口」と説明することも多い。
いかに町の「常連さん」を増やすか。
たとえば、お店であれば、忙しい時に自発的に手伝ってくれる常連客。
Jリーグであれば、選手よりも長くスタジアムにいて、チームのためならできる限りのことをしてくれる熱狂的なサポーター。
(私は以前、川崎フロンターレの経営支援として、キフロンターレという取り組みを提案・実施支援したことがあるが、サポーターの協力・行動には感嘆した。)
「関係人口」を増やしたい理由は、その地方に課題があり、その課題解決に貢献して欲しいからである。
すなわち、「かかわりしろ」とは、課題にどのように関わってもらうかであり、それをどのくらい作れるか、どれくらい明確に示すことができるか、が勝負となる。
「関係人口」としてよく引き合いに出されるのがふるさと納税であるが、実はリピーターは少なく、モノ欲しさで選ぶ人が多いと言われている。
つまり、他と差別化するためにはモノだけでは足りないのである。
関係性については段階があり、その段階をスモールステップで深めていけるような緻密な戦略が不可欠であり、その段階設定に応じたプログラムを提供するところまでが、いまの「関係人口」の獲得には求められている。
大まかにくくると以下の三段階だと考える。
①興味を持ってる人
②ファン
③サポーター
NTTデータと内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局は、地域と個人をつなぐ26の多様なサービスを調査し、具体的な手法を14のアプローチと44のヒントに整理した「個人型プラットフォームHOWto事例集」を策定している。
その地域にどのような人材が必要なのか、何のために関係人口創出を目指すのかについて整理・検討したうえで、「関心が湧く」「訪問・体験したくなる」「滞在したくなる」の3段階のうち、どの対策を打つべきなのかを検討する材料となるもので参考になる。
関わり方には人それぞれのグラデーション・バリエーションがあるからこそ、入口からだんだん奥に入ってこれるような受け入れ側の取り組みの質が求められている。
☆理解されやすく、行動に移す後押しにもなる「関係人口」プログラムの開発、
☆「かかわりしろ」のつくり方・見せ方、
☆二拠点居住の推進やワーケーションプログラムの企画、
☆地域外にアピールする商品やビジネスの立案、etc.
経験豊富な弊社ならではのサポートが可能です。
ぜひ、お気軽にご相談ください。
Comments